産業コーチは、下記の3つの特徴を持つコーチです。

1.能力向上を促進するコーチ
2.葛藤解決を支援するコーチ
3.見立てのできるコーチ

1.『能力向上を促進するコーチ』
能力を促進する対話的アプローチというものがあります。
簡便的に説明すると、クライエントが持ち込むテーマについて話し合う中で、クライエントの心的能力・認知機能に働きかける対話を行っていくものです。
ここで促進する能力とは、平たく言えば「自分で自由に考える力」というものになります。
この能力を使って人はさまざまな感情・思考・知識を材料に、深く広くイメージを発展させ、気づきと呼ばれる心の現象を起こしながら、それらを現実的かつ体系的にまとめていくことができます。
こうしたことが、より行いやすくするために、クライエントはこの能力を促進するアプローチを提供するセッションで、自分のための時間を過ごすことになります。

2.『葛藤解決を支援するコーチ』
クライエントは、現実的な課題や心に浮かぶしがらみ・葛藤を抱えて、セッションに訪れることがほとんどです。
課題を解決するためには、すでに持っている知識や概念・状況などを深くこまやかに見つめていける心の状態に促進することで、柔軟な発想・捉え方を行いやすいよう支援します。
そうして、自由自在に視点を動かせる捉え方によって、課題やその前提、とりまく情報を俯瞰し、解決策につながるような発見を促進します。
また、課題や行き詰まりを抱えている時、人はさまざまなオリジナルの想いに葛藤するものです。
その葛藤をセッションの対話でほどいていくプロセスによって、よりその人がその人らしく強化され、自然体で行動選択をしやすくなるようサポートしていきます。
他にも、クライエントが目指す未来の状況に必要になる「新しい自分」を紡ぎだしていくことができます。
このようにして「自分」という存在が強化されたり、発展していくことで、心が安定しやすくなり、ゆらぎづらい自尊心を獲得することにつながります。
セッションでは、対話の中で生じる心の体験を通して、葛藤を自己の安定・成長の糧にしていくことになります。

3.『見立てのできるコーチ』
上記で挙げた『能力向上を促進するコーチ』『葛藤解決を支援するコーチ』を確立するためにも重要な基礎となるのが、この『見立てのできるコーチ』です。
ここでの「見立て」とは、目の前のクライエントのパーソナリティや刻々と変化する心の状態を、コーチの心を使って把握していくことを主に指しています。
セッションを重ねるごと・対話を重ねるごとに、目の前のクライエントの人物像・心の働きのパターンなどを見立て、より実際のクライエントに近いモデルを、コーチの内面に構築・検証・修正していく作業を行っていきます。
これによってクライエントが自動的に使用している思考・感情・パターンなどを、クライエントの“今、ここ”のタイミングにそって受容的に扱っていくことができます。
そうしていくなかで、より自分というものの輪郭が明らかになり、能力の向上や葛藤解決につながりやすくなります。
また、見立てができることによって、コーチは対話の流れや方向性をそれとなく示したり、質問という形にして、目の前のクライエントに合わせてセッションを進めていくことができます。
これは、クライエントとコーチのやりとりに調和がもたらされるので、信頼関係の構築・維持・調整にもなります。

このようにこまやかにパーソナリティや心の状態を把握していくことで、クライエントのメンタルヘルスの不調予防・改善に役立ちます。
それだけに留まらず、クライエントの状態を見立てられないことによるメンタルヘルスの悪化・自死といった悲劇を回避することにつながります。
例えば、内省をあまり促進しない方が、今のメンタルヘルスを崩さずに済むという場合もあります。
他にもモチベーションをあまり高めるとセッション後に自死に至りやすくなってしまうという構造を持った方もいらっしゃいます。そうした方は、傍目からはいわゆる「普通の人」として見られやすかったりします。
これらの心の状態に対し、見立てができることで、コーチはアプローチを選択できたり、メンタルヘルスクリニックにもつなぐこと(リファー)ができます。

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